決して悪意の無い恋心に対して
嫌悪感を覚えるほど潔癖ではないけれど
僕の推理が正しければ、運命とは皮肉なものだと思った。

瞳が奈津美の頬をたたいてサキは寝不足になり、
河野からの連絡を待つ奈津美に出会った僕は
彼女に恋をし、彼女は相沢に思いを寄せた。

この称えるべき想いのベクトルを、
無限のスパイラルに陥らせないための最後の砦、
それが相沢という男だった。

そんな彼に敬意を表して、
僕はケータイの電話帳をスクロールして
【相沢哲司】を探すと久しぶりに発信ボタンを押した。

2コールで出た相沢に
僕がどこにいるか尋ねると、

相沢は『都内某所』とだけ言った。

「なるほど」と答えると、

『中庭の喫煙所にいる、おまえどこいんの』
と恐らく相沢はタバコを咥えながら言った。

僕も行くよと答えたその声は
すぐ頭上で鳴り響く
昼礼拝の終わりを告げるベルにかき消された。