花火の約束をしていた前の晩、
僕はサキと映画を観にいっていた。

劇場を出て新着を知らせる
ケータイを開くと、
相沢と奈津美から1件ずつ着信があり、
相沢からメールが入っていた。

『奈津美がどうしても飲みたいって
 言うから、飲んでくる、連絡くれ』

僕の胸はざわついていたけれど、
奈津美の気持ちは明らかで、
相沢は僕に精一杯の気を使っている。

外に出ると8月も盆を過ぎた夜風は涼しく、
僕の湿度の高まった感情を少し慰めた。

サキといる僕に何か言える権利も、
その場に行く勇気もない僕は、
お酒の飲めないサキを久しぶりに
自分からバーに誘った。

握ったその手はひんやりとして、
少し、哀しかった。