僕と相沢が飲んでいた居酒屋に、
アルバイトを終えた奈津美が合流した。
奈津美は相変わらず大きなレンガ色のバッグを肩にかけ
雑誌を左手に提げてやってきた。
席に着くなりそれを広げると、
「花火大会に行きたいんだよね」
とはしゃいだ。
「俺は人ごみと禁煙席と
答え合わせが大嫌いなんだ」
相沢が枝豆の皮をいじくりながら言った。
「答え合わせはしなくてもいいから
大丈夫だよ」
奈津美はそう言って
雑誌に折り込まれたカレンダーを広げた。
「どこに、行こうか」
僕が聞くと奈津美は微笑んで、
初めて見る財布と同じ水色の手帳を取り出した。
「二人で行ってこいよ」
相沢が本気とも冗談とも取れる曖昧なトーンで言うと、
奈津美は少し寂しそうな顔をした。
僕は胸が締め付けられるのを感じ、慌てて、
「いいだろどうせ彼女もいないんだし」
と言った。
奈津美の表情が明るくなったのは、
僕がフォローしたことではなくて、
相沢に彼女がいないという
事実の発覚によるものだろうと僕は思った。
恋をすると、人はこんなにも
悲観的になるものだろうかと思った。