店を出て、夕方からバイトだという奈津美と別れ、
僕と相沢は駅のホームの喫煙所で一服した。
「俺は今日、
初めて肉眼で無償の愛ってのを見たよ」
僕は相沢の言うそれが奈津美のことだと
すぐに分かった。
「奈津美が二股かけられてた男ってのがさ」
そう言い掛けると相沢はタバコを消して言った。
「そっちじゃねーよ、ネイルのほう」
僕は相沢の言わんとすることがすぐに
理解できなかった。
「相手が気まずくて取り乱してるときに、
自分はコーヒーぶっかけられたのに笑顔で
このネイルかわいいってさ」
なるほどそういうことか、と思った。
「店員の子、
顔色がすぐによくなってたね」
「嬉しいだろ、
しかも本人はそれを優しさって
気付いてないから、余計にすごい」
僕は何も言わずにメンソールを消し、
ポケットで震えるケータイを取り出して
サキの着信を確認してから、
相沢と別れて家とは逆方向の電車に乗った。