「おまえってモテるの?」
相沢がすっかり氷だけになったグラスを
ストローでいじりながら言った。
「うんて言うほどおめでたくみえるの?」
「まぁさっき事実を目撃したじゃない」
僕がコーヒーにミルクを足して言うと、
奈津美はナプキンで口を拭いて、続けた。
「二股ってかけた事ある?」
少しの沈黙のあと相沢が
「おまえは被害者?加害者?」と言った。
僕は黙ってコーヒーをすすったけれど、
なんだか苦味が増したように感じていた。
「前者!でも、鉢合わせは流石に驚いたよ」
突然のカミングアウトに相沢は動じずに
「で?」と落ち着いた声で掘り下げた。
奈津美が誰かに話したいのを、
相沢はうまく悟ったようだった。
「私、【もうひとりの彼女】に
ひっぱたかれたんだけど、
怒れずに謝っちゃったんだ、強がりって損だよね」
僕は全ての話の糸を手繰り寄せるように、
記憶を辿って聞いていた。
「そういうとき、男はどうしてんの」
相沢が空になったグラスを持ち、
氷を口に入れて言った。
「私のことも彼女だって言ったきり黙ってた
それだけで嬉しかったんだけどね」
僕は苦いコーヒーを飲み干して「女は強いね」と言うと、
奈津美は舌を出して笑い「まぁね」と言った。