さすがに真横まで来ると
彼女は驚いて顔を上げた。
左のイヤホンを取ると僕の左手に目をやり、
次の瞬間、僕からルーズリーフを取り上げた。
「ごめんなさい、
どこにありました?これ」
「教室の入り口だけど、
君のだったんだね」
彼女は机に広げた何枚ものルーズリーフを
両手でまとめながら、
「そうです。ありがとう。
ここって、次、授業あるんですか?」
「いや、ないと思うよ。
ってか僕は毎週ここで
時間をつぶしてるんだけど」
彼女の座る椅子を指差して答えると、
彼女が笑った。
「この席ってことですか?
うそっぽい。」
彼女はまとめたルーズリーフを、
白くて細長い、合皮のバッグの中に
しまいながら言った。
バッグの中に、
分厚い【新約聖書】が見えた。