別に「秘密基地」が発見されてしまったことに
腹を立てたわけではなくて。

講義で未だかつて
最前列などに腰掛けたことのない僕が、
唯一座るこの教室のそれ。


100人ほど収容するだろうこの教室の、
どうしてそこに彼女が座っていたのか、
その非科学的な心理の一致について
意見を聞きたくなり、
僕は思わず彼女に声をかけた。

「あの」

彼女の左後ろから近づくと、
彼女が微動だにしない理由が分かった。


白いイヤホンからは、
聞いたことのない音が微かに漏れていた。