河野は制作に行き詰ったと言って、
今日から帰国未定の旅に出た。
「今日、相沢くんと二人じゃなかったでしょ」
僕がメンソールの火を消し、
バスルームに向かうと、
サキがベッドから起き上がって来て言った。
「何でそう思うの?」
僕はバスルームの電気をつけながら答えた。
「女の勘かな」
僕が黙って服を脱ぎだすと、
サキは玄関に置いたままのサボテンに目をやり、
ベッドに戻って行った。
僕は今日の出来事を振り返り、
奈津美のことを思い、小さな胸騒ぎを感じた。
例えば僕が女だったら、
これを【女の勘】と言うのだろうか。
その煩悩にも似たざわめく感情と
アルコールを飛ばしたい僕は、
少し熱めのシャワーを、思い切り顔面から浴びた。