僕がメンソールを吸い終わって
緑茶の中にそれを入れたとき、
校舎から出てきた奈津美の唇の艶を見て、
化粧直しをしたのだと分かった。

そして鼻をすすったのは、寒さのせいではないことも。

僕は奈津美に、
「アフロディーテって知ってる?」と聞いた。


彼女はミルクティーを取って僕の横に腰掛け、

「愛と美の女神でエロスの母親、通称ヴィーナス!」

と言った。


そしてすっかり明るくなった表情で僕を見ると、

「事故の夜に相沢くんに言われたの、
 私と島田くんが同じ事を言ったって。
 その意味がやっと分かったよ」

と言って両足を大きく前に投げ出し、
僕の知らない歌を口ずさんで空を見ていた。


辺りはすでに薄暗くなってきていて、
メンソールを入れた緑茶を両手で握ると、
【ホット】だったそれはすっかり冷えてしまっていた。