4限を知らせるチャイムが鳴って、
ざわついていた校内が次第に静まり、
時折校舎に走っていく学生の足音だけが
僕たち二人の会話に交じって響いていた。

「恋愛に関して言うと見た目のタイプは違うけど、
 心惹かれるツボみたいなのは、同じなんだと思う」

奈津美はミルクティーのフタを閉めると、
それを右手に持ったまま両手をポケットにしまった。

「だから──」

「私ね──」

ほぼ同時に声を発した僕たちはお互いの目を見て、
どちらが先にその後を口にするか、
ゴングの鳴ったボクサーのように牽制し合った。

僕は奈津美の潤んだような茶色い瞳を
まっすぐに見てから、
時刻を過ぎて見切り発車する
朝の満員電車のような気持ちで言葉を発した。


「だから今度の恋は、うまく行くと思うよ」

そういった僕の表情は、
きっとせつないものだったんだと思う。

奈津美の表情は曇って、視線を落とすと、
彼女はポケットから両手を出してそれぞれをきゅっと握り、
ひざの上に置いて言った。

「私ね、島田くんのこと、好きになっちゃったの」


「僕の花も、咲いたんだ」

奈津美の言葉が終わらないうちに僕は言った。

そして緑茶のフタを閉めて、
ポケットからメンソールを取り出そうとしたとき、
奈津美はミルクティーをポケットから出すとそれを置き、

僕のほうは見ずに「トイレ」と言ってから鼻をすすり、
黒いエナメルのバッグを左手に提げて北校舎に走って行った。