奈津美の腕からは、
自身を支える最低限の力だけが感じられて、

僕が手を離すと、
ゆっくりと黒いタイツを穿いた太ももの上に落ちた。

「私ってね──」

そう言って下を向き、
鼻をすすった奈津美が泣いているのか、
寒さを堪えているだけなのか僕には分からなかった。

僕は黙ったまま、今度はゆっくりと緑茶を飲んだ。

「恋愛が、どうもうまく行かないタイプなの」

奈津美は相変わらず下を向いていて、
黒いエナメルのバッグにハンカチをしまいながら言った。

「相沢と僕は、昔から一緒にいることが多いけど、
 ひとつの物事に対しての答えの導き方がまるで違うんだ、
 使う公式も別々だし、僕は高校時代のテストでも、
 答案用紙の途中式は綺麗に消すタイプだったけど、
 あいつの答案用紙はひどく書き込みがされてたよ」

奈津美はふっと笑ってミルクティーを飲んだ。

「目の前に池があったら、
 僕はきっとアプローチで刻んで行くと思う、けどあいつは、
 7番アイアンで池越えショットを狙うタイプなんだ」

「ゴルフするの?」

「父親のつきあいで、何度かね」

「話が大分脱線してるね」

そう言って奈津美が大きく吐いた息は白かった。