外へ出ると、
乾いた空気が衣服の隙間から入り込んで来た。
くしゃくしゃと山吹色のイチョウを踏みつけながら
階段を降りると、奈津美がベンチに腰掛けていた。
彼女はポケットに両手を突っ込み、
グレーのニット帽を被って、
その頬と帽子の間からは、白いイヤホンのコードが見えた。
僕に気付くと彼女はイヤホンを片方はずして笑った。
僕は借りた文献を大袈裟に両手で持ち、
彼女の後ろに回り込んでそれをベンチに置いた。
「おつかれさま、どっちがいい?」
振り返って奈津美はポケットから【ホット】の
緑茶とミルクティーを出して言った。
わがままを言われた後の、
こんな少しの気遣いに男心と言うものは持っていかれる。
無邪気さと母性を兼ね揃えた奈津美に、
僕は完敗だった。
僕が言葉を失っていると、
彼女は黒いエナメルのバッグから
MP3プレイヤーを取り出して恐らく停止ボタンを押し、
もう片方のイヤホンもはずして僕の顔を覗き込んだ。
「お茶をもらおうかな」
そう言って奈津美の横に腰掛けると、
嗅いだことのある、ムスクの香りがした。