グラスに注がれる紅のワインを、
僕は早く口にしたいと思った。

「コロン劇場はすごかった」

相沢はグラスを取ると、
それを女性に向けて言った。

彼女は黙って頷き、
僕と河野にグラスを差し出した。

「シスコン、相沢に!」

と言って河野がグラスを持ち上げると、

「おまえには死んでも紹介しない」
と言って相沢がワインを飲んだ。

グラスを取った僕は一気にワインを飲み干して、
「いまも踊ってるの?」と相沢に聞いた。

「すっぴんは別として、
 エスタンシアを踊る彼女は、
 とても血がつながっているとは思えないね」

相沢は僕のグラスにワインを注いで言った。

「だからおまえの変わりに、
 俺が、その魅力を堪能するってば」

河野はグラスを置くと椅子に浅く腰掛け、
寝そべるようにして言った。

バレエ団に入っていた相沢の姉は、
学生時代ファンクラブができたほど、美しい。