「お前、なんかいいことあっただろ」

戻ってきた相沢は、僕の横に座ると、
早くも2本目のタバコに火をつけ、
煙を大きく吐き出して、
踵で中庭の芝生をほじくりながら言った。


流石、中学からのつきあいだと思う。

「煙がかかるだろ」
僕は視線を、
掘り返される芝生に向けながら答えた。

「喫煙者のくせに
 他人の副流煙を忌み嫌うなんて、
 なんてバチあたりなやつだ、
 アメリカ人みたいなやつだな。」

相沢の言う「アメリカ人」の定義が
僕にはまったくわからない。

「コーラとマックが好きなお前に
 言われたくないよ、
 それよりさっきの質問、
 もっと掘り下げてくれてもいいよ」


相沢は人が聞かれたくないと流した話を
更に掘り下げるような
人間ではないのは分かっていたけれど、
僕はこのとき、話したくて仕方なかった。

404教室で会った、彼女のことを。


すると相沢はまさしく彼らしく続けた。

「まじかよ、なんだよ、
 水曜3限のあのハゲ教授が変わるとか、
 それとも何か、固体表面の
 触媒反応の謎でも、何か解けたか?」