そのうち時が経てば
ふとした瞬間に思い出すの
だろうと思っていたのだが、
未だに咲菜の記憶は戻っていない。

「どうかしましたか?」

そんなことを考えていると
咲菜が少し心配気な表情でこちらを
見つめてきたから軽く首を横に振った。

「なんでもないよ、大丈夫。」

心配いらない、という風に
咄嗟に取り繕った
穏やかな顔で微笑みかける。

ズキリと胸が痛む。

僕の、いや、僕たちの未来は
こんなはずではなかったのだ。

いつかは2人で家庭を持つ
間柄になれれば、なんて僕は
そんなことさえも考えていた。

他のクラスメートと楽しそうに
話している彼女の後ろ姿を見ていると
自分の心の狭さを突きつきられる。