どういう風の吹きまわしか
一瞬戸惑ったけれど、お菓子作りが
得意だった母さんがパティシエの
資格を取りたいと言っていたことを
思い出した。

父さんに事情を聞くとやはり
その通りで、母さんの夢を叶える
ために県外の専門学校に
通いたいのだという。

どんな形であれ父さんが
もう一度頑張ってくれると
いうのだから応援したかった。

これで咲菜を見るたびに
ため息をつくことをやめられる。

彼女が僕をくん付けで呼ぶ度に
胸が締め付けられるように
痛くなる感覚を忘れられる。

僕の中で生きている、
記憶を失くす前の大好きな
彼女の面影と生きていける。

今の彼女は脱け殻だ。
かつての面影なんて少しも
残っていやしない。