私は誰からも求められていなかった。そこまで仕事ができるわけじゃないし、そもそも会社自体私にそんなスキルを求めていなかった。私は早く家に帰ってぼんやりしたいタイプで出世には興味がない。仕事仲間を増やそうという気もない。
私と同じくらいの時間に出社する相澤さんが隣のロッカーを使って着替えてるけど、相沢さんのブラジャーの色を見て、下着の買い替えは細かくしないとな、って思う毎日。
毎日混雑した山の手で通勤してるけど、痴漢にあったことがない。
あきらのことを考えて「せーしん的に」おかしくなってること以外は、まぁ、普通だったよね。
バイトのない日、あきらの学校は私の仕事よりも当然早く終わってて、私が「今から帰る」のメールをするとあきらからの着信がある。
これがすごく苦手。
あきらのことは好きだけど、私は会社のことで疲れきってた。愚痴がたまってて、その状態で好きだの何だの言う気分にはなれない。
帰宅途中でも「まだ残業なの><」って嘘をつく回数が増えていった。
私たちの携帯は鳴らない日のほうが多くなった。
あきらがスクールを辞めてしまったこともある。
あきらが私にバイトの報告をする必要がなくなった。
「報告」。
嫉妬深い私への「弁明の機会」。
私はその「あきらの言い訳」をおとなしく、実際に20を超えた大人だし、社会人として冷静に聞いていたからあきらはそれで私に許されてるとでも思ったんだろう。そんなはずない。私はちやほやされるあきらのことを想像し、不幸な結末を考えすぎたことが原因で身体を壊した。
私はもともとスクールで働くことに反対だったからあきらが辞めたことはそれでいい。
あきらが辞めてから、私は始めてスクールのホームページを見た。更新が遅いことで有名な「公式」にはあきらの写真が掲載されたままになっていた。

<真夜>
しんや?
仕事の名前は、どうも「まや」って読むらしい。