「どういうことなの」
「急に来て悪かったと思ってるよ」

修二はうつむき加減に言った。

「うちの父と母に取り入って、まりあにはプレゼント。卑怯な手ね」
「そんなつもりはないって」
「修二とやり直す気は本当にないの。もうこういうことはやめて」

私のぴしゃりとした物言いに、修二が深くうつむく。それから、苦しそうな声が聞こえた。

「まりあに会いたいんだ」
「は?」
「まりあに会いたいと毎日願ってる」

修二は額に手を当て、苦悩した表情で言う。それは演技には見えない。

「この前は急に結婚を申し込んですまなかった。陽鞠の気持ちを考えないで失礼なことをしたと思ってる」
「いや、それは」

本当にそうなんだけど。普通にびっくりしたし、心外だったんだけど。
修二の悲しい表情にやりきれない気持ちになる。

「もう、あんな性急なことは言わない。だけど、どうかまりあには会わせてほしい。あの子は俺の娘で、初めて会った日から、俺はあの子のことばかり考えているんだ」

切実な声で言われ、私は動揺を感じた。修二の言葉を戯言と切り捨てることはできない。だって、私もまりあを抱いて初めて知ったのだ。自分の命より大事な愛おしい存在ができるということ。この子の一瞬一瞬を大事にしていきたいと願う気持ちを。
明るく思いやり深い修二が、初めて会った我が子に愛情を爆発させるのは自然なこと。
修二の願いは本物なのだ。まりあに会いたい。父としてまりあに愛されたい。できたら、ずっと一緒にいたい。
わかるからこそ、突き放す気力を私は失ってしまう。