赤ちゃんならいざしらずまりあは二歳半。寝るまで抱っことなれば、抱っこ紐は必須の重さだ。それに寝る前の子どもは、けしてじっとはしていない。結構暴れたりぐずったりするのだ。
寝ぐずりの子どもの洗礼を受けてみなさいと意地悪な気持ちで眺めておく。しかし、驚いた。修二は、まりあを縦抱きでホールドし、根気強く背中を撫で身体を揺すり、ものの十分ほどで眠らせてしまったのだ。
ビギナーズラックだ。こんなものが育児のすべてと思わないでほしい。
心の中で憤りを感じつつ、眠ったまりあをリビングに敷いた長座布団に寝かせる。上からブランケットをかぶせ、私の可愛い天使を見つめる。

「可愛い」
「本当に可愛いな」

修二と並んでまりあを見下ろしてしまった。はっとして私は飛び退るようにその場から立ちあがった。夫婦っぽい空気を出してこないでよね!

「陽鞠、少し散歩をしないか」
「いや」

すかさず答えると、母が眉間に皺を寄せ口をはさんでくる。

「なにを失礼なことを言ってるの」
「まりあが寝てるから置いていきたくない」
「私とお父さんで見てるわよ」
「陽鞠」

修二がおずおずと名前を呼ぶ。まりあは理由にできなさそうだ。
まあ、今日の突然の訪問について両親の前で言い訳を聞くのもいやだ。

「わかった。出ましょう」

まりあを母に頼み、私は玄関で靴を履いた。
散歩といっても、家の近所をうろついて誰かに見られたくない。ここは地元なのだ。
結局、近くの公園に向かった。遊具のない小さな公園で、寒い二月の昼下がりに遊んでいる子どもはいなかった。