「考える余地なんかないですよ」

私はそれ以上考えないように答えた。

「もうとっくに終わってるんですから」
「それならもう会わない方がいいんじゃないですか?」

そう言ったのは控室から出てきた佐富くんだ。話の内容が聞こえていたのだろう。

「まりあちゃんの父親かもしれないですけど、他人は他人なんですから。下心を持って近づいてきている男には近づかない方がいいですよ」

佐富くんは冷淡なくらいの表情をしている。もともと懐っこい子なんだけど、なんだか不機嫌そうに見えた。

「もちろん、もう会う気はないわよ」
「向こうから会いたいって言われたら?」
「断るわ」

なんだか佐富くんの前で宣誓をしているような気分。
実際に修二と会う気はないからいいんだけれど。

その日帰宅したのは二十時過ぎだった。今日は佐富くんが相方だったから、店内の片付けは全部お任せしちゃったけど。力持ちの男の子はやっぱり頼りになる。
お腹を減らして帰宅すると、まりあがてちてちと玄関まで走ってきた。なるべく早く寝かせたいものの、私が遅番や通しの日は帰宅まで起きて待っていることが多い。

「まあま、おかえいー」
「まりあ、ただいま。……なに、そのくまさん」

まりあが抱いているのは彼女の三分の二くらいの背丈の大きなくまのぬいぐるみだ。