最後の喧嘩の原因は、修二が私との結婚や子どもができたことを職場に一切報告していないことだった。
結婚式に招待すべきと主張する私に、結婚を知らせていないし、すぐに知らせるつもりもないと修二。
これには私も怒った。そして傷ついた。私とお腹の赤ちゃんはそんなに恥ずかしい存在じゃない。

今思えば、安定期に入ってからと配慮していたのかもしれない。私が退職した職場の同僚を式に呼ばないから、気を遣ったのかもしれない。
しかし、このときは修二の冷たい態度も相まって邪険にされているように感じたのだ。

『距離を置かないか』

修二の口からその言葉が出たのも無理からぬことだったのかもしれない。
私は苛立ちと虚しさから了承した。修二にとっては、頭を冷やしたいという意味だった。だけど、『別れてしまっても仕方ない』という感情がその後ろに透けて見えていた。

私も修二も疲れたのだ。大好きな人の心を削り合う作業に。

赤ちゃんは私ひとりで育てようと心に決め、ふたりで暮らし始めたばかりのマンションを出た。
両親には散々叱られ、修二くんと復縁しろと迫られ、私は出産まで貯金を切り崩してマンスリーマンションで暮らした。元職場の同僚や大学時代の友人から英語の書類の下訳を請け負い、在宅バイトをしながら過ごした。
結局出産間際に両親が折れ、私は実家に戻りお産に挑んだのだ。

二年半が経った。私は私なりにまりあを育ててきた。両親の力はたくさん借りているけれど、まりあの親権者は私。
修二の入る隙はない。

娘ほしさに求婚してくるような男は、こちらから願い下げだ。
私は付録じゃないのだ。