「矢沢さん、ありがとう。少し、和谷と話してみます」
『いえ、それでは』

矢沢さんはあっさりと電話を切った。
私は受話器を握りしめ、しばらく呆然とした。
やるべきことは決まっていた。
リビングダイニングに取って帰すと、ちまきが出来上がっていた。

「お母さん、これから出かけていい? まりあを頼みたいんだけど」
「え? うん、いいわよ」
「修二、体調悪いみたい。様子見てくる」

母があらあらと言いながら、なんのためらいもなく当たり前のように紙袋を用意する。できたてのちまきをどさどさと入れた。

「ちまき、持って行きなさい。食べられるかしら」
「きっとね。終電までに帰るから」

私はまりあを抱き上げ、ほっぺにちゅっとキスをした。

「ごめんね、ママちょっと行ってくる」
「ぱぱのおうち?」

よく聞いてるものだ。まりあも行きたいのだろう。だけど、今日は私ひとりで行くべきだ。

「パパ、お風邪かもしれないから、ママひとりで行くね」

まりあは悲しそうな顔をした。自分だってパパに会いたいだろうに、にじんできた涙を拭いてこくんと頷く。いじらしい姿に私が泣けてしまう。

「ありがとう。パパがお風邪治ったら遊ぼうって約束もしてくるからね」

私はちまきの紙袋を手に家を飛び出した。