矢沢さんの言葉に、私は押し黙った。
修二がミス……。自分でも見栄っ張りだと言っていた修二は、努力や苦労を見せたくないタイプだ。裏でこっそり頑張るし、スマートに仕事をこなすために労力は厭わない。
小さなミスを連発しているなんて、確かに修二らしくない。身が入っていないと、周囲が心配してしまっても無理からぬことかもしれない。

「わかりました。わざわざご連絡いただいたことには感謝いたします。今度まりあと会う機会を作り、カンフル剤にさせます」

まりあとの次の約束がないせいで、しょんぼりしているのだとしたら、私が悪いのだ。早く連絡してあげればいい。

『失礼ですけれど、そのとき陽鞠さんはちゃんと同席されていますの?』

矢沢さんが呆れたような声音で言う。いちいち気に障る言い方~!

「してますけど? まりあの母なんで」
『私が思いますに、和谷先生に必要なお薬はまりあちゃんだけではないようですよ。私には到底信じられませんけれど』
「は?」

矢沢さんの険のある言葉に私は苛々を隠しきれなくなる。

『あら、わかりません? 愛され慣れて傲慢になっている女は嫌ですねえ』
「はぁ~!?」

いよいよ喧嘩寸前の声をあげる私に彼女は言った。

『こちらは失恋してるんです。敵に塩なんか送りたくはありませんが、和谷先生に何かあると事務所の問題になりますからね。……お薬のお仕事、よろしくお願いします』

その言葉に私ははたと止まった。ようやく、彼女の言わんとしていることが通じた。
この人は、本当に修二のことが好きだったんだなあ。