「あの、じゃあなんの御用ですか?」

前回の別れは最悪だったはずだ。私はコーヒーショップでぶちギレ、彼女は修二にそのことをチクって号泣。さらに修二に振られて帰ったはずだけど。

『最近、まりあちゃんを会わせて差し上げてますか? 和谷先生、とてもお元気がないんです』
「は~!?」

なに、この女、まだ修二のこと狙ってるの? 女房気取りで電話かけてきちゃったわけ?

「ご、ご心配なく! ゴールデンウィークはまりあと会ってますから」
『会う頻度が少ないのじゃございません?』

余計なお世話甚だしい! 
今にも怒鳴り返しそうにぶるぶる拳を握る私は必死に自制しながら言い返す。

「じ、事務員なのに、所属弁護士のプライベートに踏み込み過ぎじゃない?」
『事務員として当然の仕事です』

ぴしゃりと矢沢さんは言い返す。うう、面倒な女。

『和谷先生は、企業法務のスペシャリストで我が江田沼法律事務所のエースです。銀座の老舗から大企業まで和谷先生のクライアントは数多あります。その和谷先生が、どうしたことでしょう。最近細かなミスが多く、明らかに仕事の精彩を欠いているんです』

さらに彼女は言う。

『陽鞠さんの御宅にご同居されていた頃の方がお時間もなく忙しかったはずなのに、時間に余裕ができた今の方がお辛そうで。今日もひとつ、書類上の不備があり、裁判所から差し戻しがあったのですが、和谷先生にはあり得ないことです。大きなミスではないんです。でも、和谷先生らしくないとボスも心配しています』