「悪かったな。変わってなくて」
馬鹿にされてはいないと分かっていても、自分より大人なレベッカを見ていると、少し腹がたつところがあった。無論、それはレベッカのせいではないのだが。 「さて、レディック様。そろそろ行きましょう。俺がムーストン様に怒られてしまう」
仕返しのようにため息をついて、俺は反発した。座っていた古い椅子から、少しずつ腰を浮かせつつ。
「…俺、あのおっさん嫌いなんだよなぁ。解答時間が短すぎんの。しかも、あね声なんかもう最悪。王太子殿下に罪をおしつけて、とかなんとかで捕まんねぇの?」
「罪のおしつけ?何ですか、それは」
声の調子から、俺はすぐ分かる。レベッカは、喜怒哀楽がすぐ声に出る。
「…笑ってるだろ、レベッカ」
「え?」
すぐに疑問の声がかかる。俺は含み笑いを含めたそのレベッカの声に、安堵感を覚えた。
共に背中を預ける事のできる、ただ一人の人間。
「いや、あいつの声すっごい眠くなるんだよ。しかも、寝たら俺のせい。あーあ」
薔薇の香りが、吹く風と一緒に鼻をくすぐる。
今一瞬しかないこの時間を、見続けたかった。