この国の民は、多分もう1度王族に裏切られる事を恐れている。
王族の理由はどうであれ、信じ続けた王がいなくなり1国の責任を、急に背負わされたのだから。
もう、歩く事も立ち止まる事も許されない。

「ナタル、聞いてくれるか?俺は…この国の王なんだ」

ナタルの顔が、笑顔のまま凍った。
大きく揺らしていた足も止まって、戸惑いの表情に変わる。
「お客さん…?レディック…王?だって、シエーザーって、ラ・アンサーなの?嘘でしょ、ラ・アンサーなの?嘘?」
「ナタル、聞いてくれ。この国に俺が7年間もいなかったのは、理由があるんだ。決して、このラ・サズリック王国を捨てて逃げたわけじゃない。俺は、7年前の記憶はない。だけど…」
「…じゃあ、王様じゃないんじゃないの」
ナタルは、はっとして口をおさえ後退りするように俺の隣から離れた。
そのまま俺から目を離さず、ドアに背中が当たると逃げるように部屋を出る。
「ナタル…」
俺が王だという証拠がどこにある?
あの本に書いてあった名前は、たまたま俺と同じだったっていうだけで、この国の王もたまたま俺と同じ歳だっただけで…。
信じたい。
この『偶然』を、信じたい。