こんな小さな子供が、もう自分の夢を語っている。
「お客さん、何ていうの?名前」
「…レディック…」
思わず言いそうになった言葉をのみこんで、一瞬息をのむ。
心臓が、不自然に速く動く。
「え?…レディック?」
耳を近づけてくるナタルを見つめて、力強く目を閉じた。
「…レディック・シエーザー…」
「ふうん。王子様と一緒の名前なんだ…。レディック様かあ」
その微妙な返答に戸惑いながら、静かに息を吐く。
何で、自分の名前さえも偽らなければいけない?
この国で、俺の存在を主張するものはない。
「王子様って、そういえばまだ生きてるんだ。…今どうしてるんだろ?」
「え?」
「だってお父さんが言ってたんだけど、もしかしたらカスクライ王国に連れさられたかもしれないって…。本を見たんだ。でも誰も確認する事はできないから。カスクライ王国には、レディック王子様と同じ歳の王子様がいるけど、その人はあまり表に出てこないみたいで」
その通りだ。
俺は、カスクライ王国にいた。
「ナタル、聞いてくれるか?俺は…」
口から出た言葉は、もう止める事ができない。
こんな小さな子供だと思って油断していた。
自分自身の完璧な不注意だ。