「前王クリスタント様は、敵軍に勇ましく剣をふるまわれた後、息絶え…」
レベッカは、言葉の後を濁し俺に手を差しのべた。服が燃えるのもかまわず、微笑みながら白い手の平を手前に軽く突き出す。
「…王?この俺が…?」
―何故だ?城も燃えたのに か?
自由と共に失ったものは、とてつもなく大きかった。今まで願ってきた事は、全て手に入れた上でのわがままだったのだ。
「一人でどうすればいいんだ?…たった一人で…」
その時、頬を火の粉がかすめた。
同時に右手に他人の強く優しい手が重なり、強い力でひっぱられた。何の力も入れてなかったため、情けなくレベッカの胸の中にたおれこむ。
汗と死人と、乾ききってない血の匂い。
―何人…殺した?
レベッカは、自分の胸にたおれてきた王の汚れない髪に顔をうずめ、微笑みを含めたような低い声で、なだめるように呟いた。
「レディック様…俺もです。…『この命・体滅びるまで主につかえる者』…。『我が名は『レベッカ・ラクロイム』』…」
心地よい声が、耳に優しく響く。
いつの間にか、空に黒い雲が広がり雨粒が容赦なく体をうちつけた。涙か雨か分からない水が、頬をつたって流れおちた。
自分を信じてついてくる民のために。