「あー、わかる。ふたりとも信じられないんでしょ? 表向きの殿下ってそんなもんよ。陛下をはじめとした家族やみんなの前では絵に描いたような殿下を演じているだけ。生まれた時から次期国王として周りの期待とプレッシャーを背負っているので、万人受けするようにしているのよ」
「ルイーザの前では違うってことよね。それって、気を許している証拠じゃないかしら?」
「違うわね。私が同類だからだと思う。似ているのよ、私たちは。私も将来の王妃としてずっと両親や周りからうるさく言われてきたから。みんなが見ているのは、私、ルイーザじゃなくて高貴な身分で容姿端麗な次期王妃。名前なんてどうでもいい。屋敷の中でも学園でも息ができる所がないから苦しいのよ」
「ルイーザ……」
 沈痛な表情を浮かべているルイーザの肩に私が手を添えると、マイヤーヌが彼女の背に触れた。

「私は大丈夫。メイドカフェがあるし、シルフィたちがいるもの。だから、殿下にもよき友人と巡り会ってほしい。そう願っているわ。あの人、温室育ちだから心の隙を突かれて簡単に取り入られそうだもの。とくに女性には気をつけた方がいいわ」
「どうして? 殿下の権力目あてならば、男性も近づくと思うけれど」
「恋の病は医者にも治せないっていうでしょ? 昔から恋愛で身を滅ぼした偉人もいるし。まぁ、でもそこまでの恋愛できるなんてある意味うらやましいかな。私自身、そんな恋愛をしてみたいって気持ちはちょっとあるかも。理性を超えても好きだって思う人に今まで一度も出会ったことがないから」
「理性を失うのは問題があるわ。嫉妬心から人を傷つける……誰も周りにいなくなっちゃう……」
 マイヤーヌがぎゅっとエプロンを握りしめている。もしかしたら、過去の自分を思い出しているのかもしれない。