前世日本人の私ならルイーザの言っていることがわかるけれど、マイヤーヌにはわからないよね。マイヤーヌにも食べさせてあげたいなぁ。炭火焼きの焼き鳥や、刻み葱(ねぎ)とすりおろし生姜をのせた冷や奴。
みんなで浴衣を着て、花火を見にもいきたい。けれどきっとそれは永遠に叶わない願いだ。私は転生して、シルフィとしてこの世界で生きているから──。
「ねー、シルフィ。かき氷くらいなら作れそうじゃない?」
「ふふっ、考えることは一緒ね。実は職人さんにお願いして作ってもらったものがあるの。説明するのが大変だったけれど」
「もしかして!?」
寝転がっていたソファから飛び起きたルイーザは、期待を含んだ目で私を見つめている。
「ちょうど模様替えが終わったし、休憩にしようか。ふたりとも厨房に来て。見せたいものがあるの」
私はふたりを厨房へ連れていくと、調理台の上にのせたある機械を見せた。
それはそれは大きく、厨房でかなりの存在感を放っている。
右側に歯車のようなもの、上部には大きなネジのようなもの、そして下部には空間がある。
「かき氷機!」
両手を上げて子供みたいに喜んでいるルイーザは、私の方へ体を向けると瞳を輝かせながら口を動かす。
「ねぇ、どうした? これ」
「お店の夏季限定メニューにしようと思ってオーダーしたの。かき氷なんてこっちの世界にはないから、職人さんと一緒に試行錯誤して完成したんだ……氷とシロップも用意しているわ。冷蔵箱を開けてみて」
私は厨房の奥にある黒い長方形の箱へと視線を向けた。
箱の正体は冷蔵庫のようなもので、メイドカフェの食材などはここに収納されている。
動力源は電気ではなく、魔法石だ。魔法石というのは、魔力が込められた石。
魔法石を使うことで、魔力を持たない者も魔法の恩恵を受けられるので便利。
サイドにカードキーを入れるような場所があり、魔法石が埋め込まれたカードを差し込んで使う。ちなみに魔法石は高級品のため、一部の王族や貴族にしか普及していない。
毎年、夏になると思うんだけれど、ぜひクーラーも作ってほしい。
魔法石を使った道具は大抵魔術大国からの輸入品。それも相まって手に入りにくいのだ。
「かき氷!」
まるで歌でも歌いそうなくらいに上機嫌なルイーザが、冷蔵箱を開けて中から瓶を取り出した。透明なシロップにはざっくりと大きくカットされたオレンジ色の果肉が浸っている。
「果実シロップを作ったの?」
「うん」
「あー、いいね!」
「ほかにもいろいろな果物でシロップを作って、みんなで試食しよう」
「いいじゃん! 新メニュー」
「じゃあ、今からかき氷を作るね」
私は手を洗って氷を冷蔵箱から取り出すとかき氷機にセットする。
次に皿を機械の下へと置くと、手で右側にあるレバーを回していく。
ざくざくという氷の削れる小気味のいい音と共に、皿には削れた氷がたまっていった。