「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま戻りました。このために仕事と学業をがんばっていたと言っても過言ではありません。私にとってシルフィさんのお店はパワースポットです」
「ありがとうございます。旦那様もおかえりなさいませ」
「ただいま、シルフィ」
 はにかみながらアイザックが言うと、マイカが「ん?」という声を漏らす。

「いつもはご主人様呼びだったはずですわよね?」
「えぇ。旦那様呼びの方がよろしいとお願いされまして……」
 ちょっと前にご主人様呼びよりは旦那様呼びの方がありがたいと言われて、そちらで呼ぶようにしている。
 うちのメイドは私のお父様のことを旦那様呼びしているので、とくに問題はないと思うし。
 マイカはじっとアイザックを凝視すると、彼はたじろぎ視線を逸らした。

「旦那様ってそういう妄想の使い方ですか。なかなかマニアックなことをやりま……んっ?」
 マイカが私越しに視線を固定させたので、私は振り返った。どうやら、マイヤーヌが接客をしているのを見ているようだ。

 もしかして、バレちゃったのかな? それとも新しいメイドが入ったから興味を持ったのかな?

 正解がわからないため、鼓動が速くなり背に汗をかき始めてしまう。

 ぎゅっとスカートを握りしめながら、マイカの言葉の続きを待った。

「新しいメイドさんですわね」
「本当だ。気がつかなかった」
「アイザック様。あの方、どこかで見たことがあるような気がしませんか?」
「奇遇だな。俺も見覚えがある。だが、どこで会ったかまでは不明だ」
 ふたりは腕を組んでマイヤーヌを注視している。

 面識はあるけれど、いつもの声のトーンと違うから、マイヤーヌと結びつかないのかも。
 私は彼女の身バレを防ぐことも兼ねて先手を打ち、紹介を始める。

「今日から入ってもらっている新しいメイドさんです。つい見つめたくなるくらいにかわいらしいですよね。お気持ちわかります」
「違う。そういう目で見ていたわけじゃない。ただ、なんとなくどこかで見たことがあるような気がしたから……俺が世界で一番かわいいと思うのはシルフィだけだ」
 アイザックが熱のこもった瞳で見つめながら力説したので、私は体温が上昇するのを感じる。
 時が止まったかのように、彼から視線をはずせない。

 ど、どうしちゃったんだろう。私……仕事をしなきゃいけないのに……。

 そんな瞳でアイザックが私のことを見つめたことがなかったため、そわそわ心が落ち着かなくなった。