「お待たせいたしました。本日のケーキセットです」
「ありがとう。見ない顔だけれど、新しいメイドさん?」
「はい。今日からお嬢様たちにお仕えさせていただいております。マイヤーヌと申します」
「制服、すごくかわいいね。とても似合っているよ」
「ありがとうございます」
とても接客が初めてには思えないし、学校での彼女を知っているからびっくり。
幼少期から知っているけれど、マイヤーヌがあんなふうに笑うなんて、あまり見たことがない。
声のトーンもいつもと違って明るい。
研修中の札を今すぐはずしても大丈夫なくらいになじんでいる。
「おつかれ」
カウンターに行くと、ルイーザが声をかけてくれた。
「おつかれさま」
「マイヤーヌすごいよね。生き生きしているわ」
「うん」
「本当に接客が初めてなの?ってくらいの順応性。さすがは成績優秀者。なんでも覚えるのが早いわ」
「本当にそう思う。研修中の札は不要だったかも」
学園内では読書をしている光景をたびたび見かけていたけれど、その時は寡黙な印象だった。
でも、今はお客さんと楽しそうに会話している。学園内の生徒がお客さんとして入店しても、絶対に気づかないって断言できるくらいに別人だ。
「ねぇ、ルイーザ。このお店、マイヤーヌにとって居心地のいい場所になってくれるかな? 私ね、前世でお店に来てくれるお客さんや従業員に居心地のいい場所だって思ってもらえるカフェがつくりたかったんだ」
「叶っているわ。少なくとも、私はそう思っているもの。ありがとう」
ルイーザが微笑みながら言ったので、私はきっかけがなんであれ、夢が形になったことが誇らしかった。
マイヤーヌにとっても居心地のいい場所になってくれるとうれしい。
やっぱり好きなことを我慢するのはつらいから……。
マイヤーヌのことを考えていたら、扉が開きウィンドチャイムが音を奏でて入店を告げる。
顔を向けると、「よし、勝った!」と手を天井に掲げているマイカの姿が。
その数秒後に両手にパンパンの荷物が入った紙袋を持っているアイザックが現れた。
大きく肩で息をしながら、顔を引きつらせてマイカを見ている。
休むことなくお店に通ってくれていて、常連客の一員として名を連ねているふたりだ。
「そりゃあ勝つだろう。人に荷物を持たせて走っていけばな。そもそも、荷物はいったん家に置いてこいよ。重いし」
「重いに決まっているじゃないですか。中身は本ですもの。ラッキーでしたわ。偶然、アイザック様に会って。購入したのはいいんですが、重かったんですよね。それ、ついでに家まで運んでくださいね」
「ついでではないだろ。俺の家は真逆だ」
アイザックは頬をピクピクと動かしている。
彼が目を細めてマイカを見れば、マイカがにこっと微笑んで言った。
「同郷のよしみで」
入り口付近でアイザックたちはしゃべっているけれど、相変わらず仲がいいのか悪いのかわからない。
ふたりのやり取りは、当館ではほかのお客さんたちの間でもある意味名物となっている。
「あー。あのふたりが来る時間帯か。毎回、混んでいない時間帯に来てくれるのはありがたいんだけれど、時間帯ぴったりだから鉢合わせをするのよね」
「私、お出迎えをしてくるわ」
私はオーダー票を持つとルイーザにひと言声をかけた。
「行ってくるね」
「いってらっしゃい」
ルイーザに見送られながらカウンターを出ると、ふたりを出迎えた。