数日後。マイヤーヌの初出勤当日を迎えた。
 私はそわそわとした面持ちで更衣室のソファに座っている。

 ──マイヤーヌ、来てくれるかな?

 テーブルの上にはブラウスと水色のジャンパースカート、ヘッドドレスなどの制服がたたんであった。
 その隣には研修中と書かれた名札も。名札には私が作ったウサギの編みぐるみがついている。

 ウィッグやコスメの準備も整っているので、後は本人のみ。

 学園では馴れ合わないでと言われているため、馬車に同乗することができない。
 そのため、アリバイ工作のために私の家に一度訪問してもらい、そこからうちの馬車で来てくれる段取りになっていた。
 
 働いてくれることを了承してくれたけれど、実際に顔を見るまでちょっと不安。
 悶々としているとノック音が聞こえたので返事をすると、現れたのはマイヤーヌだった。
 安堵感から雑念が綺麗に消えていく。

「来てくれてありがとうございます」
「別にシルフィ様のためではありません。私、約束は守ります」
「制服はテーブルに置いています。廊下で待っていますので着替えたら呼んでくださいね。ウィッグなどの準備をしますので」
「えぇ」
 私はそう言うと部屋を出るために扉に向かって足を進めていく。

 何気なく振り返って部屋を見ると、視界の端にマイヤーヌが入り込んだけれど、名札を手にしてふわりと微笑んでくれていた。

 どうやらウサギの編みぐるみを気に入ってくれたみたい。よかったわ。

 弾んだ心で廊下に出ると、ちょうどルイーザがそこにいた。
「茶葉の補充とテーブル拭き終わったわ」
「ありがとう」
「マイヤーヌは?」
「中にいるわ。着替えが終わるまで外で待っていようかなぁと」
「そうね。それがいいと思う」
 私とルイーザが談笑しながらしばらく待っていると、「終わりました」という声が扉越しに聞こえてきた。

「さて、じゃあさっそく始めましょうか」
「うん」
 ルイーザの言葉に私はうなずくと部屋をノックした。