「正直、忙しいのよ。お昼は人が殺到するから完全予約制にしている。カフェ時間は予約制ではないけれど、ふたりで回すには非常に忙しいの。もし、マイヤーヌがやらないっていうのならば、ほかの人に声をかけるわ」
「……料理ができないです」
 マイヤーヌは戸惑いながら小声で答える。

「それはいいの。私とシルフィが交代で厨房に入るから。ホール専任でやってほしいのよ。かなりいい条件だと思うわよ。だって、かわいい制服は季節によってチェンジするし、ふかふかなクマのぬいぐるみがある更衣室も使える。かわいいものを我慢してストレスたまりまくりの生活から解放されるチャンスよ」
 ルイーザはマイヤーヌに近づくと、ポンと肩に手を添え耳もとでささやく。

「安心して。アリバイ工作なら、私が協力するから。シルフィと私と休日にはお勉強会を開催しているって。王太子殿下の婚約者である私と仲よくして嫌がる家なんてないし、誘いもむげにはできないわ。ねぇ、いい案でしょう?」
 なぜだろう。悪魔のささやきに聞こえるのは。

「これは双方に利益がある取引。私たちは労働力を手に入れられる。あなたはかわいいものに囲まれ素の自分になれる場所が手に入る」
「あ、悪魔!」
 マイヤーヌも私と同じようにルイーザが悪魔に見えたらしく、詰まりながら言う。

「あら? どっちかといえば女神だと思うわ。現に学園ではそう呼ばれているし」
 ルイーザは口もとを手で覆い、クスクスと笑っている。
 それをマイヤーヌは精いっぱいの睨みで威嚇しているけれど、覇気がまったく感じられない。完全降伏寸前という雰囲気だ。

「マイヤーヌ。お返事は今日中というわけでは──」
「やります」
「え?」
 即答されるとは思ってもいなかったので、私は間の抜けた声が出た。