「これが私……?」
鏡に映し出されているのは、町ですれ違っても気づかないレベルのメイクだった。
眉を少し太めのアーチ型にして優しげな印象に仕上げ、彼女が苦手だと言っていた目もともブラウンシャドウによりちょっとタレ目に演出されている。口もとはオーバーリップにし、ぷっくりとした唇をつくり上げていた。
髪は緩く巻き上げ、片方だけバラのお団子風に仕上げている。
「マイヤーヌ、いかがですか? ちょっと眼鏡に違和感があるかもしれないけれど、フレームを変えればまた違う印象になると思います」
「あー、たしかに。さすが、シルフィ」
マイヤーヌはドレッサーに手を伸ばしてそっと鏡に映る自分の姿に触れた。
「やっぱり、私なのね」
「そりゃあ、そうでしょ」
ルイーザが笑った。
「よかったら、メイドカフェで一緒に働きませんか? かわいい制服も着られますし、この更衣室も自由に使用できます」
「待って。ちょっと混乱しているわ。そもそもメイドカフェ自体がなにか把握できていないわ。働くって労働ってことよね?」
「えぇ、そうですわ」
私はざっくりとメイドカフェの経緯を説明すると、彼女はぐっと眉間にしわを寄せ始めた。
「まさか、エクレール様がそのようなことをしていたなんて。四大侯爵に強いこだわりがあることは把握していました。でも、まさかよその領地にまで手を出すなんて……陛下にはお伝えを?」
「えぇ、お父様からお話をしてもらって、話し合いを設けていただいています。ただ、難航しておりますが」
陛下が仲介に入ってくださって話し合いをしているけれど、なかなか進まない。長い年月をかけて積み重なった呪いのような恨みは、そう簡単には晴れないのだろう。
「んで、マイヤーヌ。やるの? やらないの?」
「ルイーザ。今ここで決めるのはちょっと……」
少し焦れた様子でルイーザがマイヤーヌに返事を迫ったので、私はそれを制するように割って入ったのだけれど──。