「へー、いいじゃない。その格好、なかなか似合っているわよ」
腰に手をあてたルイーザが言うと、マイヤーヌは我に返り、ぬいぐるみから身を離した。
「笑いたければ笑いなさいよ。どうせこの服も似合わないわ。あなたたちが着ろと言ったから無理して着ただけ。爵位はあなたたちの方が上だから」
「別に笑っていないわ。それに強制もしていないし。ひねくれているわね。いいじゃない。好きなら好きで。我慢してチャンス逃したら、死んだ時に後悔するわよ。やりたかったことをやれなかったって」
「……ルイーザ」
死んだ時に後悔する――その言葉を聞き、前世の記憶が私の頭をよぎった。
私は親友の凜々花に裏切られ、あと少しで手が届きそうだったカフェ経営のチャンスを逃してしまった。
自分ではどうすることもできなかったことで、後悔どころの騒ぎではなかった。
でも、マイヤーヌの場合は違う。彼女の気持ちひとつで、チャンスを掴むことができるのだ。
私はマイヤーヌの隣に座ると、彼女の本心を聞くために真っすぐ見つめて尋ねた。
「マイヤーヌ。正直に答えてください。かわいいものはお好きですか?」
「……好きよ。でも、家が許してくれない。それに、あなたみたいにかわいくないから似合わないの」
マイヤーヌはうつむくと、スカートをきつく握りしめた。
「今の自分のままでは向き合うことができないのでしたら、違う自分で向き合ってみませんか?」
「どうやって?」
弾かれたように顔を上げたマイヤーヌと目が合ったので、私は微笑んだ。
「まずメイクで。ルイーザの腕はたしかですわ」
「えっ、呼び捨て……」
「いいのよ。シルフィは。学園では周りの目があるから呼び捨てにしていないだけ。それより、メイクするからドレッサー前の椅子に座って。私、メイクは得意なの。代わりにかわいい髪型はシルフィに担当してもらって。シルフィ、学園にいつもかわいい髪型をしてくるわよね。リクエストあるならしたら?」
「ば、バラの髪型にしてほしい」
空耳だったかなというくらいに小さなマイヤーヌのつぶやきが聞こえ、私は目尻を下げて口もとを緩める。
少しずつ素直になっていってくれてうれしい。メルヘン部屋のおかげだろうか。
その後、私とルイーザが一緒になってマイヤーヌのメイクとヘアを完成させたのは、持ってきたお茶が冷めた頃だった。