「さて、目的の人物は……あぁ、見つけたわ」
ルイーザが視線を向けた先を追うと、そこには閲覧席に座っているマイヤーヌの姿があった。静かな眼差しを本へ向けながらページをめくっている。
図書館がとても似合う方だなぁ。
マイヤーヌに近づけば、本に集中しているようで私が隣に来ても気づいていないようだ。
「ごきげんよう、マイヤーヌ。今、お時間よろしいかしら? ちょっとお話があるの」
凜としたルイーザの声に、マイヤーヌがゆっくりとこちらに顔を向ける。
赤茶色の瞳が私たちを捉えると、不審そうな表情を浮かべて口を開く。
「注目のおふたりがそろって私に声をかける意図とは、なんでしょうか?」
「まぁ、いいじゃない。私たちとお茶をしましょうよ」
「なぜ、私が?」
「もちろん。ご一緒してくださるわよね。だって、私、ルイーザ・ハーゼの誘いなんだもの」
その台詞、ゲーム内でルイーザがヒロインに言っていた気がするんだけれど。
絶対に断れない言い方だったから覚えている。
ルイーザの身分の方が上だから、むげにはできないんだよね。
私がちらっとルイーザを見ると目が合い、彼女は私にウインクをした。
どうやら確信犯らしい。
マイヤーヌは息を吐くと立ち上がり腰を折った。
「承知いたしました。お茶会へのお誘いありがとうございます」
「まぁ! よかったわ。私、一度あなたとお話がしてみたかったの。さぁ、参りましょう」
「先に外に出ていてくれますか? おふたり目立つので一緒にいたくないんです」
「えぇ、わかったわ。馬車止めにいるからいらっしゃって。シルフィ、行きましょう」
私はうなずくとマイヤーヌに会釈をして廊下へと出た。