「ありがとう。私たち、マイヤーヌのことをちょうど捜していたの。ねぇ、シルフィ」
「えぇ。ありがとう」
「シルフィ様のお役に立てたのでしたら、幸いですわ」
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
私はそう言って小さく手を振って足を進めると、隣を歩いているルイーザがクスクスと笑う。
「どうかした?」
「いや、ゲームの世界と違うなぁって。やっぱりここは現実で、私たちは私たちなんだなぁって思ったの。だって、ゲームの中では悪役令嬢だから、あんな反応されないもの。私、現実世界のシルフィの方が断然好きよ。私にメイドカフェという居場所をくれた。感謝しかないわ」
「私の方こそ、感謝しているわ。お店、手伝ってくれてありがとう」
「いいのよ。頼んだのは私だし。それに好きだからね。料理もあの店も」
ふたりで微笑みながら図書館へと向かった。
図書館と書かれたシルバープレートが掲げられた扉を開けて中に足を踏み入れると、広々とした吹き抜けの館内がうかがえる。
正面奥には左右に一カ所ずつ螺旋階段があり、真ん中には貸し出しカウンターが。出入り口付近には閲覧テーブルが複数並べられ、生徒たちが課題や読書にいそしんでいた。
閲覧テーブルの左右を挟むように、数えきれないくらいの膨大な書籍を収納した棚が等間隔に設置されている。
──マイヤーヌ。どこにいらっしゃるのかしら?
辺りをきょろきょろと見回していると、周辺がざわめき始めているのに気づく。
「どうかしたのかな?」
「たぶん、私とシルフィが一緒にいるからよ」
さっきの女子生徒たちの話を思い出す。珍しい組み合わせと言っていたのを。
たしかに私とルイーザが一緒にいるのは珍しいかも。そもそもクラスが違うしお昼はアイザックと食べているから。
「ルイーザ様とシルフィ様だわ!」
「おふたりが一緒って珍しいわね」
「眼福だな」
「俺、図書館に来てよかった」
静かな館内では、あちこちでささやく声もはっきりと聞こえてくる。見られているとどうしても意識をしてしまい、ちょっと恥ずかしくなる。