楽しいお茶会を終え、私たちが帰宅するために廊下を歩いていると、突然「あの女!」という怒鳴り声が聞こえてきたため、ルイーザと顔を見合わせる。

 ちょうど廊下の角に差しかかるところなので、曲がった先に声の主はいるみたい。
 私たちと同年代くらいの女子の声だったから、生徒だろう。

「なんか、かなりブチギれてるわね」
「なにかあったのかな?」
 角を曲がると、少し離れた前方に女子生徒がふたりいた。

 ひとりは眉をつり上げながら壁を蹴っているし、もうひとりは手にしている扇子を何度も閉じたり開いたりしている。

「あー、苛々する。性格最悪すぎるでしょうが、あの女。私らが子爵令嬢だからってあんなに上から目線で」
「本当。いくら伯爵令嬢だからって口うるさすぎ。たしかに図書館でおしゃべりしてうるさかったのも悪かったわ。でも、だからって『耳障りな甲高い声で鶏のようにうるさい。読書に集中できないわ。消えて』なんて言う!? 言い方あるじゃない。消えてってなに様よ。普通に『静かにして』って言えばいいのに」
「どうやってラルフ様に取り入ったのよ? あの女」
 誰のことを言っているのかがわかった。
 きっと、マイヤーヌのことだ。

 彼女たちは立ち止まっている私たちに気づくと動きを一瞬止め、いきなり顔を輝かせながらふたりで抱き合い黄色い悲鳴をあげだす。

 ついさっきまでスカートを持ち上げて壁を蹴るほど怒っていたけれど、急に機嫌が戻る原因がどこにあったのだろうか? 上機嫌になるような、なにかいいものでも見えたのだろうか。
 なにか見えたのかな?と後方を振り返るが、見あたらない。

「ルイーザ様とシルフィ様だわ! 最悪だったけれど、おふたりのお姿が見られるなんていいタイミング」
「天使様と女神様両方をこんなにも近くで拝見できるなんて!」
 ふたりは手を取り合ってはしゃいでいる。

「ねぇ、あなたたち。もしかしてマイヤーヌって図書館にいるのかしら?」
 ルイーザが微笑みながら近づき尋ねると、彼女たちは頬を染めて「はい」とか細い声をあげる。
 思わず見とれてしまうほどのその微笑み──、女神って呼ばれるのはわかる気がするわ。