「……?」
「そのハンカチでとがめられる理由はいっさいないよ。校則にも違反していない。趣味嗜好を人に押しつけるのは間違っている」
「アイザックの言うとおりです。マイヤーヌ、君は他人に対して少々厳しすぎますよ。シルフィだけではありません。ほかの生徒たちに対してもです。たしかに君が注意する生徒の中には、実際に校則違反をしている生徒もいますが、今回のシルフィのように難癖に近い時もありますよ? 君は自分から敵をつくりすぎている。とくにシルフィにきつくあたるのはなぜですか?」
ラルフの言葉に対してマイヤーヌは顔を真っ赤にさせると、目を細めて私を睨んだ。
「なぜシルフィを睨むんですか?」
「……っ!」
マイヤーヌは唇を噛みしめると、くるっと背を向け足早に立ち去っていく。それを見て、ラルフは盛大なため息を吐き出すと、両手で頭をかかえた。
「申し訳ありません、シルフィ」
「ラルフが謝ることはないよ」
「彼女は一応婚約者ですから。でも彼女の考えていることがわからないんですよね。女性って難しい」
再度ラルフは深いため息を吐き出すと、アイザックが肩を軽く叩きながら励ました。
放課後。私は学園内にある温室でルイーザとお茶会をしていた。
王族の紋章が描かれたステンドグラスが目印のガラス製の温室内には、天井からつるされたベコニアなどの色彩豊かな鉢植えが等間隔に設置され、綺麗なグラデーションの花カーテンをつくり上げている。
その下には王族の紋章が入った大噴水があり、その周辺には絢爛豪華と呼ぶにふさわしい胡蝶蘭やバラなどの主役級の花が咲き誇っている。
所々に王族の紋章が施されていることからわかるように、ここはもともと王族のためにつくり上げられた学園の温室。
時代の移り変わりと共に今では王族だけではなく、王族の婚約者又は公爵、四大侯爵家の者にまで使用範囲が広げられている。
「もったいないよね。温室に入れるのは、学園内で私とルイーザ、ウォルガーの三人しかいないなんて」
メイドカフェに出す試作品である野菜のパウンドケーキを食べながら、私はテーブル越しに座っているルイーザに話しかける。
すると、彼女はフォークを口もとまで運んでいたのを止め、こちらに視線を向けると肩をすくめてみせた。