「どうかしたの?」
「いえ、最近どうもウォル……」
ラルフがなにかを口にしようとした時、突如影が差す。
顔を上げると、腰まであるストレートヘアの女子生徒の姿があった。
黒縁の丸いフレームの眼鏡をかけ、きりっとした瞳でこちらを見ている。
ラルフの婚約者、マイヤーヌだ。
ゲーム内では私やルイーザと同じ悪役令嬢。
マイヤーヌは貴族の品格にとても厳しく、民のために貴族は見本になるべきという考えを持っている。
そのため、学園内でも目を光らせ、突然持ち物チェックを始めるから他の生徒たちから恐れられている。
とくに私には厳しく、先日はガーベラが描かれたバレッタを注意された。
「シルフィ様」
突然名前を呼ばれ、私はビクッと体を動かしてしまう。
今、目立つような物はなにも持っていないはず。
今日はそのまま髪を下ろしているから、髪飾りもつけていないし。
「は、はい」
「そのハンカチはいかがなものでしょうか」
「ハンカチですか……?」
私は首をかしげた。膝の上のハンカチはとくに変わったものではない。
リネン生地に自分で花やリボンの刺繍を施したものだ。
「ちょっと派手ではないですか? もっと貴族としての品格を持ってください。四大侯爵家なのですから民の見本になっていただかないと」
「申し訳ありません」
とりあえず謝っておく。
急いでハンカチをスカートのポケットへとしまおうとすると、アイザックが「待ってくれ」と手首を掴んた。