……ん? そういえば、さっきマイカは同じ国に生まれたって言わなかった? マイカの出身地は、ゲームの設定どおりグランツ国のはず。アイザックはマルフィ出身のはずだけど……。

 私が口を開こうとすると、ルイーザの静かな声がそれを制した。

「お嬢様、ご主人様。申し訳ございませんが、当店はお触り禁止です。守っていただけないと、出禁になりますのでお気をつけてくださいね」
〝出禁〟のフレーズを聞くと、ふたりはさっと私から手を離し、コクコクうなずいてルイーザの方を見た。

「申し訳なかった。出禁はやめてくれ」
「すみません。気をつけます。出禁は勘弁してください」
 まるでオオカミに睨まれた子ウサギのようだ。

「次から気をつけてくださいね。それから、私やシルフィのことはほかのお客さんのようにシルフィ、ルイーザとお呼びくださいね。様づけなさると私たちが困るので。もちろん、わかっているとは思いますが、私たちの正体はご内密に。では、シルフィ。お嬢様たちのご案内をお願いします」
「えぇ、任せて」
 ルイーザは軽く会釈をすると、立ち去った。
 アイザックとマイカは緊張から解き放たれ、ほっと息を吐いた。

「ではお席にご案内いたしますね。どうぞ、こちらへ」
 私は中央付近にあった二人掛けのテーブル席へと案内し、ふたりが椅子に腰掛けると、メニュー表を広げて説明を始める。

「……簡単ですが、以上が当館の説明となっております。なにか不明な点などはありますか?」
「あ、あの! シルフィ様……ではなく、シルフィさん。お菓子や料理もシルフィさんの手作りですか?」
「はい。私とルイーザのふたりで作っております」
「シルフィさんが給仕をしてくれて、シルフィさんの手作り菓子や料理が食べられてこの値段。えっ、桁が三つ四つ不足してない?」
 マイカはメニュー表を凝視しながら真剣に言う。

「たしかに安いな」
 アイザックもうなずく。

「て、適正価格だと思いますよ。あと、当店はスタンプカードがございます」
 私はエプロンのポケットからカードを取り出すと、ふたりに渡した。
 ふたりはスタンプカードを見て、不思議そうな顔をしている。
 どうやら珍しいようだ。

「来店一回でスタンプを一個押させていただきます。十個たまるごとに、得点があるんですよ。よろしかったら、ぜひ集めてくださいね」
 この世界ではスタンプカードという概念はないため、お得感があると大好評だ。
 この制度の導入をきっかけに、メイドカフェ『黒猫伯爵の部屋』はたちまち話題になった。
 そして、主な利用客である商人たちの情報網に乗って、店の存在はあっという間に口コミで広がっていったのだ。