「ありがとうございます。ありがとうございます。お金ならいくらでも払います。あり金を全部払っても安いくらいですわ!」
「お前、何言ってるんだ。だけど無理やり連れてこられて来てよかった。
こんな幸運な休日があるなんてな」
マイカは祈り始め、アイザックはガッツポーズをして喜んでいる。
えっと……どうしよう……お店を気に入ってくれたのはうれしいけれど……。
「ツインテールもフリルの服も似合っててかわいいな。まるで天使のようだ」
「でしょ? だから、前から言ってたじゃないですか。天使様だって。かわいい以外の言葉が浮かびませんわ。まさしく、天使降臨。あまり見かけないかわいいメイド服も神々しい」
「ありがとうございます。制服を褒められてうれしいです」
自分で作った服をかわいいと言ってもらえるのは、やっぱりうれしい。
自然と顔が綻ぶのを抑えきれないでいると、「違うよ」と近くのテーブル席のお客さんに声をかけられた。
振り向くと、そこには常連の女性がふたり、こちらを見ていた。
「シルフィちゃん、制服じゃなくてシルフィちゃんのことだよ」
シルフィ……あっ……!!
ふたりに私の正体、バレちゃったかな?
ちらりとアイザックとマイカの様子を探ると、ふたりは確信したらしく、私を見つめて大きくうなずいた。
……あっ、完全に私だってわかったのね。
「この制服はかわいいって評判だけれど、メイドさんも評判なのよね。シルフィちゃんもルイーザちゃんもすごくかわいい。王都一よ」
ルイーザは王太子殿下の婚約者。私が働いている以上の衝撃を受けるのは間違いない。
「あら? ルイーザちゃんはかわいいというより、イケメン枠だと思うわ。シルフィちゃんがふんわり優しい癒し系メイドさん。ルイーザちゃんはとテキパキとしたクール系メイドさん。バランス取れているのよね。ねぇ、ルイーザちゃん!」
お客さんが窓際で食器を片づけていたルイーザに呼びかけると、アイザックたちが目で追う。
こちらに背を向けていたルイーザが振り返ると、アイザックとマイカは目を見開いた。
そんなことはものともせず、ルイーザはこちらにやって来ると、「はじめまして。お嬢様、ご主人様」と、不敵な笑みを浮かべた。
「美男美女で、とてもお似合いのお嬢様とご主人様ですわ。ねぇ、シルフィ。そう思わない?」
「えぇ、そうね」
私がうなずくと、アイザックとマイカは同時に私の手を取り、激しく首を横に振りながら力説し始めた。
「それは違う! 完全に誤解だ。俺とマイカはそういう間柄ではない。偶然出会って無理やり連れてこられただけなんだ。だけどまさかきみに会えるなんて……」
「そうなんです、シルフィ様。誤解なさらないでください。私とアイザック様はただ同じ国に生まれ、留学先が同じだっただけのこと。むしろ天使様を巡ってのライバルですわ。先日、ジグから天使がいる店の話を聞いたけれど、まさか本物の天使様がいるなんて。アイザック様を連れてこなければ、私ひとりで独占できたのに!」
ふたりでデート中に立ち寄ったと思っていたのだが、そうでもないのだろうか。