数ある商会の中でも主に十大商会がこの世界を牛耳っている。
 オルニス商会もサイファ商会もその十大商会の一つだ。

 オルニス商会は西の覇者であるグランツ王国と密接なため、西大陸での経済活動が活発。
 一方、サイファ商会は、十大商会のレット商会とツェル商会と競いながら、北大陸の経済覇権を握るため精力的に動いていた。

「サイファ商会さんも洋服の契約を?」
「いえ、うちは生地が欲しいんです。ラスティ国にいる顧客から、こちらのブラウスのことを聞いたんですよ。船乗りの家族が着ていたそうです。生地に興味を持った顧客からぜひうちにも回してほしいと頼まれまして」
「そうですか。おたくはもともと生地の卸問屋ですもんね。生地といったらサイファ商会さんというくらいに。さすが飛ぶ鳥を落とす勢いのサイファ商会さんです」
「いえいえ、うちなんてまだまだです。西大陸の黄金の鷲と呼ばれるオルニス商会さんにはかないません。すみませんでした、取引中にお邪魔して」
「いえ、お気になさらずに」
 双方お互いを探るように見つめ合っている。

 そして女性は私の方を見た。

「お話を聞いていただきたいので、お時間をいただけませんか? もちろん、ご都合のいい時でかまいませんので……」
「かしこまりました。カフェ時間の営業が終わり次第でいかがですか?」
「ありがとうございます。ではその時間に立ち寄らせていただきます」
 深々と頭を下げると女性は店を出た。

 十大商会のうちのふたつがリネンに興味を持ってくれるなんて夢みたいだ。
 もし、オルニス商会とサイファ商会との契約がまとまれば、工場の経営状態はもとのように順調なものになるだろう。

 夕方からのサイファ商会の訪問が待ち遠しい。