「女の子のワンピースです」
 お客さんは大人がメインなので子供服はディスプレイしていない。
 でもリネンは夏でも涼しげなので、子どもサイズも作ってみたのだ。
 反応を窺うと、ニキさんがワンピースを手に取り凝視している。

「これはうちの娘のために作られたものですね!」
「あーあ、また始まったニキ先輩の癖」
「とてもかわいい! シルフィさん、このワンピースを売っていただけませんか? うちの娘に着せたいんです。娘はグランツで王族のパレードを見て以来、将来の夢がお姫様なんです。俺の中ではすでにお姫様なんですけどね」
「親バカ全開じゃないですか……。俺としては、子供服の扱いも検討すべきだと思います。へたしたらこっちの方が当たるかも」
「そんなに需要ありますか?」
「女の子はお姫様に憧れる時期が必ずありますからねぇ。俺はグランツ出身なんですが、絵本のお姫様はフリル満載ですよ。王族も貴族もフリルやレース使いの絢爛豪華なドレスですしね。こっちは違うみたいですが」
「北はシンプルですから」
 ジグさんたちと話をしていると扉をノックする音が聞こえた。

 今日は珍しく、休憩時間に来客が続く。
 私が接客中だったため、ルイーザが代わりに応対してくれた。

 訪ねてきてくれたのは、紺色のワンピースにジャケットを羽織った女性だった。
 髪をひとつにまとめ、手には艶のある鞄を持っている。

「突然申し訳ございません。私、サイファ商会の輸入生地部門を担当している者です。リネンについてぜひお話を──」
 女性は話の途中で私たちの存在に気づいたらしく、こちらに視線を向けて眉を動かす。
「サイファ商会さん。こんにちは」
「オルニス商会さんもいらっしゃっていたんですね」
 ニキさんは立ち上がり笑顔を浮かべると、女性も微笑んだ。

 私の気のせいだろうか。
 双方笑みを浮かべているのに、冷たい火花が飛び散っているように感じるのは。