ニキ先輩と呼ばれた人を見ると、彼は手のひらを握りしめ口もとにあてるとゴホンと咳払いをする。
 そして姿勢を正すと、「少しお時間よろしいですか?」と尋ねてきた。
「はい。どうぞ、こちらに」
 視界の端で、ルイーザがお茶を入れてくれているのが見えた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。オルニス商会仕入れ部門担当のニキと申します」
「オルニス商会の方だったんですか!?」
 思わず声が裏返ってしまった。まさかここでマイカの家の名が出るなんて! ジグさんが言っていたお嬢様って、マイカのことだったんだ。

 ゲームをプレイしていた身としては、〝オルニス商会=マイカ〟なので美術部門が真っ先に浮かんだ。

 実際のオルニス商会は、美術部門だけではなく金融など多岐にわたり経済活動をしている。
 そのため、服飾関係の業務に携わっていたとしても不思議ではない。

「単刀直入にお伺いします。展示されているリネンのワンピースやブラウスに関して、ぜひうちと契約を交わしてくれませんか。以前より取引先とリネン製品について話をしていたんです。リネンは寝具をメインで使用されていますが、衣服にも使うべきだと。いかがですか? ぜひ、うちと組みませんか」
「ありがとうございます。工場長たちの意見も聞いて、前向きに検討させていただきます」
 願ってもないチャンスだ。

 取引にあたってはいろいろ検討しなければならないが、とてもいい波がきていると思う。

「条件などをお話ししたいので、またお伺いさせていただきます」
「はい。では、またご連絡いたしますね」
 帰ったらさっそくお父様に話して、それから工場長へ手紙を出そう。
「あの……実は、ブラウスに関してちょっと見ていただきたいものがあるんです。お持ちしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、ぜひ」
 私は桜の刺繍が入ったリネンのトートバッグを持ってきた。これも私が作ったものだ。

「これまた素敵ですね!」
「いえ、こちらではなく中身です」
 私がテーブルに広げると、「おおっ!」というジグさんの声が響く。

 大きなフリルがふんだんに使用されたリネンと綿混合の生地で作られたワンピースだ。スカート部分には刺繍を施し、チュールレースを組み合わせた。
 袖はレースで、腰には大きなリボンをあしらってある。