「ルイーザのその変装、まだ慣れないわ。学園の生徒がお客さんとして訪れてもまったく気づかないと思う」
「私、メイクが得意なの」
「私にもしてほしいなあ」
「シルフィはそのままでいいよ。ふんわりかわいい天使系。私はクール系のキャラ設定だからバランスいいし。メイド服もキャラ設定どおりに作ってもらったしね。すごく着やすいよ、このメイド服。服を作れるなんてすごいよ」
ルイーザは体の向きをくるくる変えながらメイド服を眺めている。
彼女が着用しているのは、スタンドカラータイプのブラウスに、胸下で切り替えがある黒のジャンパースカート。それに合わせてニーハイソックスも靴も黒でそろえた。
「シルフィのメイド服姿も、とてもかわいいわ。心配になるくらいに」
じっと見つめられて、気恥ずかしくなってうつむいた。
私が着ているのは、レースとフリルを組み合わせた二重襟のブラウスに、レースのパニエでふんわり膨らませた水色のジャンパースカート。
それに純白のフリルエプロンをつけている。
ルイーザと共に、私も変装中だ。
ウィッグは薄いラベンダー色のツインテールタイプで、毛先が緩やかにカールしている。
「そろそろ開けようか? オープンの時間だし」
「ええ」
お客さんが来てくれることを願いながら、扉を開けると、店の前には数人のお客さんが待ってくれていた。私はほっと胸をなで下ろす。
「チラシのとおり、本当にメイドさんだわ!」
「すごくかわいい。お人形さんみたいー」
うれしい言葉を聞きながら、私たちは微笑みあって口を開いた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。ご主人様」
開店から一時間後。お客さんは時間が経つにつれて増え、ほぼ満席の状態になった。
オープン初日からこんなに繁盛するとは思っていなかったので、私たちはうれしい悲鳴をあげている。
メイドカフェというコンセプトで来てくれたお客さんも多いけれど、意外なことに料理を楽しみにしてきてくれた人もいた。
「おいしいーっ! 大人のお子様ランチってなんだろうってチラシを見て思ってたけど、注文してよかったわ。主食からサラダ、デザートまで全部いっぺんに食べられるなんて今までなかったもの」
「おにぎりセットもおいしいわ。お米を三角形に握ったものって聞いたけれど、こんな食べ方があるのね。豚汁っていうスープもおいしいし、葡萄でつけた野菜のお漬物もほどよい甘さでおいしい」
私はテーブル上の空いた食器を片づけつつ、満面の笑みで食事を楽しんでいるお客さんたちから聞こえてくる嬉々とした声に胸をなで下ろしていた。
メニュー作りはすごく悩んだ。こっちの世界の料理を作るか、自分たちの得意とする前世の料理を作るかで。
そもそも日本食を作るにあたり、材料が……と思ったが、運河沿いの輸入品を扱う店には、意外なことに味噌などの代用品があった。
ミニム王国は運河貿易が盛んで、他国の物が手に入りやすいのが幸運だった。
──人気なのは『大人のお子様ランチ』と『おにぎりセット』かな。後で傾向を分析しておかなきゃ。
大人のお子様ランチは、前世でカフェ経営する時に提供する予定だったメニュー。
お得感があるから、こっちの世界でもウケがいいかようだ。
お漬物付きのおにぎりと豚汁セットも人気だ。
お漬物はこっちの世界で食べやすいように日本のとある地域でよく食べられている葡萄を使ったほんのりと甘い漬物にしてみた。