衣装や内装など準備に準備を重ね、いよいよ本日、メイドカフェ『黒猫伯爵の部屋』がオープンする。
 チラシを配ったり、商店の店先にポスターを貼らせてもらったり、事前に宣伝はしたけれど、ちょっと緊張する。

 今までなかった形態のお店に、はたしてお客さんは来てくれるのだろうか?

「……胃がキリキリしてきた」
 私はゆっくりと息を吐き出しながら、店内を見回す。
 コンセプトは〝貴族の部屋〟。

 ルイーザといろいろ案を出し合って、貴族の気分が味わえるようにしようと決めた。
 天井にはティアドロップシャンデリアを設置し、壁の色はワインレッドで落ち着いた雰囲気にした。

 壁の模様は、黒猫とティーカップを組み合わせたメイドカフェオリジナル紋章だ。
 テーブルやソファは最高級品を使用し、壁の絵画も名画を揃えた。

 ──商人町に近いから、商会の人たちがたくさん来てくれますように。

 私はそう願いながら、店舗の一番目立つ場所にある展示スペースに足を進めた。
 メイドカフェがメインではなく、あくまでもアピールしたいのはリネン製品だ。

 壁の全面棚にはリネングッズをディスプレイし、リネンのブラウスやワンピースなどを着せたトルソーも配置。店内のクッションなどの小物にも、ネンを使用した。

「シルフィ。そろそろ時間よー」
 展示品を見ているとバックヤードへ通じる扉から、爽やかな声と共に灰色のショートカットの少女が現れた。
 サイドの髪は耳たぶがわずかに出るくらいまでの長さに切りそろえ、前髪は斜めに流している。

 男装の麗人のように美しさとかっこよさを兼ね備えた彼女は、意思の強さを感じる力強いミルクティー色の瞳で私を捉えると、蠱惑的に微笑んだ。
 同性でもドキッとするくらいの色香を持つ彼女の正体はルイーザだ。