まさか想像もしていなかった。

 だけど考えてみれば、私と同じように転生した人がいても不思議ではない。

「その反応は、当たりのようね。ここが『ありあまる大金の力で恋愛攻略』っていう、ぶっ飛んだ乙女ゲームの世界というのは把握しているかしら?」
「はい。プレイしていましたので」
「そう、よかったわ。ねぇ、シルフィ様。お互い敬語はやめない? 私のことはルイーザと呼んで。私もシルフィって呼ぶから」
「えぇ、わかったわ。これからはルイーザって呼ぶわ」
「ありがとう。家でも学校でも気を張る生活が苦痛なのよね。私、前世でも庶民だったし。それにしても、私たちどうして悪役令嬢に転生したのかしら? もしヒロインが王太子殿下ルートに入っちゃったら、私は全国民の前でギロチンコースよ。冗談じゃないわ。ギロチンって即死じゃなくて〝しばらく意識ある説〟があるのに。嫌よ、殺すならひと思いにしてほしいわ」
 その気持ち、わかりすぎるほどわかる……。
 私も破滅フラグを折りたい。ルイーザとはいろいろ分かち合えそうだ。

「でも、王太子殿下は学園に入学していないから大丈夫じゃないかな。そもそもどうして殿下は入学していないの? シナリオどおりじゃないってことよね?」
「そうなの。殿下は執務の都合上って言っていたけれど、私はちがうんじゃないかと思ってる。いまいち本心が掴めないのよ、あの方」
 ルイーザは頬に手をあてると、ため息を吐き出した。

 やはりシナリオが完全に狂っている。どうやってフラグを回避をするればいいのやら……。

「ねぇ、それよりスケッチブックに書いてあるメイド服とカフェの内装らしきイラストはなに?」
「実は──」
 私は自分の領地の危機とその対策案を説明した。
 代々、ラバーチェ一家に目の敵にされていること、今回の嫌がらせのこと。
 それから、打開策としてメイドカフェを経営し、リネン製の衣服を広めようとしていることを。
 ルイーザは真剣な眼差しで、時折うなずきながら静かに聞いてくれていた。