そうだ、寝具にこだわらずとも、衣服や雑貨などいろいろなものに使えるはずだ。
ワンピースやブラウスなどを作ればいいのでは?
「お父様、お兄様。リネンで衣服も作ってみませんか? ただの服ではなく、北大陸では珍しい〝フリルやレース満載のデザイン〟にするんです。リネンの織物は糸の太さによってシャー・リネン、クラッシュ・リネンなどの種類に分けられていて、それぞれの特性を生かして衣服や雑貨が作れますから、バリエーションも豊富ですし」
「ほぅ。それはおもしろいアイデアだな」
お父様が身を乗り出した。
「ブラウスやワンピースのサンプルでしたら、私が作れます」
「まさか、ここでシルフィの裁縫好きが発揮されるとは……。
たしかに、その案は素晴らしい!寝具にこだわっているのは、きっと貴族や王族のみだ。庶民をダーゲットにして新規開拓してみたいが……。問題はリネンの衣服が世間に認知されるかどうかだな」
お父様は腕を組み、思案顔だ。
「えぇ。宣伝を兼ねて〝メイドカフェ〟をオープンするのはどうでしょう? メイドカフェはまったく新しいカフェですから、話題性は十分ですわ。店舗の場所は運河沿いにある商人町付近がよろしいかと。商人たちは新しい情報をチェックしますから、きっと興味を持ってくれますわ」
「シルフィ。そもそも、メイドカフェというのはなんだい?」
「店員がメイドさんの格好をして給仕をするカフェのことですわ。そこでドリンクや軽食を出すだけではなく、アッシャードのリネン製品を直接販売する場を兼ねたものにするのです。店内の一角にリネン製のブラウスやワンピースを展示し、メイドカフェという新しいジャンルで注目を集めて、お客様にリネンを宣伝するんです。まずは着用したい、購入したいと思ってもらえる機会をつくり、需要を生むのが大切ですわ。うまくいけば、口コミで噂が広がり、商会の受注につながるかもしれません」
私の話をお父様とお兄様は真剣な表情で聞き、大きくうなずいた。
「すごいぞ、シルフィ。なんて斬新なアイデアなんだ」
「そ、それは……」
前世の記憶があるからとは言えず、私は曖昧に微笑んだ。
その後、お父様とお兄様はさっそくリネンの新規事業を立ち上げ、メイドカフェの話を進めることになった。
まさか、前世での夢だったカフェ経営の知識と趣味だった裁縫の技術が、こんな形で生かされるなんて! なんとしても実現させたい。
雫の願いだったカフェ経営を叶えられるのはもちろんうれしいが、シルフィとしては領地の命運を背負っているため、重圧もひしひしと感じる。
がんばって成果を出さなきゃ。私は固く決心した。